オレとIZAMはホテルで作戦決行と同時にプルプルしていた。
扉の前には、牛が寝そべっているのだ。
このホテルから抜け出るためには、その巨体を乗り越えねばならない。
うぬぬ・・・先が思いやられる・・・
勇気を振り絞り、牛のケツをパシリと叩く。
すると、うめき声と共に道が開けた。
よし!とIZAM君とハイタッチをする。
決して、オレの手についた謎のヌルヌルを
彼につけようとしたわけではない。
しかし問題はここからだ。
耳を澄ますまでもなく、路地の奥からはギャンギャン!ワンワン!と
畜生どもの遠吠えや、うなり声が聞こえてくる。
そんな畜生どもが生息する狭い路地を、建物から漏れるかすかな明かりを頼りに
気配を消して進んでゆかねばならんのだ。
この緊迫感は、まるでドラクエのダンジョンのようであった。
しかもこのダンジョンに棲むイヌなるモンスターの中には、
狂犬病なる即死スキルを持つ”マッドドック”も多々いるらしい。
ちなみに発症後の致死率は驚異の99.99%である。
《マジ勘弁して下さい!》
だが、そんなマッドドッグにも弱点はある。
闇に潜むモンスターらしく光と水、風の音に弱いらしいのだ。
しかしIZAMとオレ。二人はニートである。
世間から見ると役職は、どうあがいても遊び人という弱々しい存在でしかない。
そう、遊び人には水の魔法も、光の魔法も使えないのだ。
そんな有り様のこのパーティーには『戦う』という勇ましいコマンドはすでになく、
『逃げる』というコマンドのみが宙にむなしく浮いていた。
しかし、そんな弱々しいパーティーであるが、
暗闇の中、足下を走り回る犬どもを避けながら、なんとか進み続ける。
そして十何匹目かの犬をやり過ごし、フゥーと一息着いたその瞬間。
ギャオオン!!!!
ひぃいい!!
まさかの横の路地からの奇襲である。
先頭を歩くオレは脳より早く脊髄が動き、
反射的にIZAMの後ろに回り込んで、彼を盾にする形となった。
そして犬はオレの俊敏な動きに驚き、踵を返し去っていった。
ううむ、予定通りである。
しかしIZAM君はオレを振り返り
「いま、オレを盾にしませんでした・・・?」と悲しい目でオレ見る。
ち、ちがう!これは残像拳という高度なスキルでだな、
犬を追い払うため致し方なく行った行為でだな・・・
作戦開始からわずか13分。時刻は4時13分の出来事だった。
それは、立場が完全に逆転した刻限として記録された。
そう、あの瞬間、IZAM君がオレに向ける視線は、
敵である狂犬を見るよりも冷たいものであった。
そんな誤解を受け、いたたまれぬ気持ちのままオレは進み続け、
無事、リキシャというセーブポイントを見つけることに成功する。
駅に着き、電車で聖地ブッダガヤへ。
そして、その電車の中にはIZAMさん!チャイ飲みますか?と
敬語でチャイを渡すオレがいた。
・・・屈辱である。
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