疲れ果てどこでもいいやと、投げやりに決めたホテルである。
だが目を覚ますと、そこが想像以上にステキなホテルであることに気づいた。
カーテンを開けると、窓の一面にヒマラヤの山並みが広がっているのだ。
ミハイルとアーニャが見せてくれた写真には及ばないけど・・・
これは素晴らしい・・・
ヒマラヤを眺めタバコを吹かしていると
ドラえもんからメールが入ってくる。
「二時、街中、マニ車のある寺で待つ。」
ドラえもんらしくない明白な指示のあるメールだ。
おそらく、彼もこの旅で何かをつかんだのだろう。
成長した彼に、はやく会いたいものだ。
時間も近づいていたので、オレはシャワーを浴び、
スッキリした頭で、街をぶらりとして寺に向かうことにした。
《これは正月明けです。》
通りに出るとチベット正月が近いからか、思ったより人混みがすごかった。
しかし、さすがはダラムサラである。
チベタンが多いからか、それでも物静かな空気が流れている。
不思議な、いい街だな・・・
俺は誰ともなくつぶやき、寺の前でドラえもんを待つ。
でも、こんな人混みで会えるのかな?と探すように人混みを眺めていると、
遠くに一際目立つ人影があった。
あ・・・あれは・・・?
ドラえもんだ!!!!
長いインド生活・・・彼のオールバックの髪型は、
くせ毛に負けモジャモジャに爆発していた。
しかも、この寒い中、なぜか半袖である。
おかげで腕のタトゥーが「ボクはここにいるよ?」と
悪い意味で激しく自己主張をしているではないか。
そして、インドで買ったであろう趣味の悪いネックレスを
ガチャガチャと揺らせている。
あげく、右手にはタバコ。
うわぁ・・・なにあの悪人・・・?
ドラえもんはオレに気付かず、寺に向かって歩いてきた。
赤の僧衣をまとった僧侶が彼の存在に気づき、大袈裟なぐらいに道をよける。
よく見ると人混みのことごとくが、彼に道を譲っているではないか。
こ、こんなに混んでるのに・・・
まるでモーゼの十戒のようだ。
・・・いや、そんな美しいものじゃない。
あれだ、街に出没したヒグマ的な感じだ。
成長どころか悪化しているその存在感は、オレにあげかけた右手を下げさせ、
後ろを振り返って、ボク、デリー帰ろうかな・・・?とふと思わせてしまう程だ。
すると、あ!のび太くんだ!!!!と
オレに気付いたドラえもんは猪突猛進、
チベタンを蹴散らすがごとくオレの胸に飛び込んでくる。
「ははははは!のび太くん!久しぶりだっちゃね!!!」と
オレを抱きしめるドラえもん。
本当に久しぶりだね!!!可愛らしい大分弁のギャップがオレを笑顔にする。
「おいおい!なんか真っ黒になったっちゃねー!」
そっちこそ、ますます悪そうだぞwなんだよwその姿ww
二人は再会を喜び、はしゃいでいる。
しかしこんな感動的な再会ですら、周りのチベット人たちには
悪党が気弱そうな日本人を襲っているふうにしか見えなかったはずだ。
ひとしきり再会を喜び合っていると
ドラえもんは行きつけの店があるからと、オレをとある店に連れて行った。
そこは個室のあるちょっと洒落たチベットレストランだった。
今日は俺がおごる!と言う剛毅なドラえもんに甘え、メニューを眺める。
メニューにはなかなかに美味しそうな写真が並んでおり、
オレはゴクリと喉を鳴らした。
あ、モモ食べたい。でも麺類のテンツクもいいなぁ。
うーん、やっぱ人のカネだと思うと迷っちまうなー。
一番高いのはどれだ・・・?
トントンと個室のドアをノックする音が聞こえる。
店員さんがオーダーを取りに来たようだ。
オレはメニューから目を離さず、
うーんどれにしようかな~?と迷っていると、
店員さんが「ふふふwお決まりですかぁ?」とオレ達に声をかける。
えーとねー・・・うん!?日本語!?
オレは驚き、パッと視線を店員さんに向ける。
なんだ・・・?見覚えある顔・・・
え・・・しずかちゃん・・・?
そこに立っているのは源しずか、まさにその人である。
え?え?なんで!!!!
し、しずかちゃん?ええええええ!!!???
どーゆうこと!?
ええええええええ!!!?
ドラえもんは「やっぱり驚いたっちゃねwww」と笑っている。
しずかちゃんも「びっくりしちゃった?」と笑いながら聞いてくる。
色々な思いを言葉にできず、ただクビを縦に何度も振るオレ。
『うふふwやったぁ!』と混乱するオレをよそに
二人はハイタッチをしている。
はwはははははwwwwwま、マジですかwwwwww
「はははwマジだっちゃよ!」
「ふふwマジですよw」
他人を陥れておきながら、最高の笑顔をみせる二人に
ようやくオレが言うべき言葉が浮かんだ。
くっそおwwゲスどもがwwww
オマエら、ほんとうに最高だなww
「でしょw?」「だろw?」
笑い声が店内に心地良く響く。
その後、三人は肩を寄せあい抱きしめ合うだろう。
ダラムサラ初日、十四時二十三分
それは怒羅衛門ズが一ヶ月ぶりに、再結成した瞬間である。
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