坂道の続くバスの中、気がつけば陽は暮れていた。
別れの寂しさから始まった自分との葛藤の中、
下を向いていたので気付かなかったのだが
オレの隣りには若いチベット人女性が座っていた。
しかも、めっちゃ美人である。
な、なぜだ!他にもいっぱい席が空いているというのに!
なぜ、こんなかわいい娘がオレの横に座るんだ!!!
ま、まさか!!?ボクに好意を持ってるんですか・・・!!!
モテない男とは女性の意味すらない行為に勘違いをするものである。
しかも横目で見ると切れ長の瞳は退屈そうに窓に視線を泳がせているではないか!?
こ、これは・・・?神よ!感謝いたします!
だが、かといって
ヘイ!お譲ちゃん、なになに?ロサール行ってたのん!?
などいきなり直球勝負で戦うことははばかられる。
ブサメンはそんなことではいけないのだ。
小細工だ!それしかない!
直球勝負で上手くのはイケメンだけだ!
自分の立ち位置を考えろ!考えるんだ!のび太!
オレはカバンの中から本を取り出す。
ダラムサラで買ったダライ・ラマが表紙の本だ。
コレどうですやろ・・・?と見せつけるように
読むふりをする姑息なオレ。
すると、どうであろう。
やはりダライ・ラマという聖人はなにか持っている。
本を広げて何十分か経つと女性は窓から視線を移し、
オレの本をチラチラ見ているではないか。
ここや!!ここですぞ!のび太どの!
>うむ、わかっておるわ!煩悩どの!
本をひとしきり読んだふりをし、
うむ、いい本でしたな・・・ダライ・ラマはやはりいい・・・
と英語でつぶやく卑劣なオレ。
すると、どうであろう。
「あのう・・・」と女性のほうから話かけてくるではないか。
やはり
このナオンはオレに惚れているに違いない!と壮大な勘違いをしながら
オレは普段1ミリも使わない紳士という装いを
ホコリまみれの引き出しから引っ張り出す。
そして柔らかな物腰で彼女との会話に臨む。
オレに、もう別れの悲しい気持ちなどなかった。
つーか、
やっぱ過去より未来じゃん!?
ニコニコと笑顔もかわいい彼女との話は大いに盛り上がった。
かれこれ一時間くらい話しっぱなしだ。
オレのくだらん話に彼女はクスクス笑ってくれている。
《F,クライスラー、のび太同様、謙虚な人物であったらしい》そんなオレの頭の中では
クライスラーの『愛の喜び』が高らかに響きっぱなしだ。
あまりに魅力的すぎる彼女におもわず結婚してください!と
叫びそうになるのを抑え紳士的に、そう紳士的に会話を楽しむ。
いやぁ、
このバス乗ってよかったあ!!!
そして二時間が過ぎようとした頃、
オレの頭の中でクライスラーの野郎は
メロディを『愛の悲しみ』に強制変更し
哀しい旋律を高らかに響かせていた。
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2014-05-17 17:53
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